Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル・番外編

    “今年もよろしく”
 



くどいようですが、旧の暦ではまだ年の瀬で、
年によっては今の節分よりもずっと後までずれ込むのが
月の満ち欠けの暦を使っていた時代の日之本の 年の境目だったのだけど。
ウチでは今の暦に沿わせて催事を扱わせていただきますのであしからず。


…で。
一応は宮仕えの身である神祗官補佐殿には、
正月気分に浸ってのんびり過ごす…なんて暇はなく。
何といっても年度の節目、
位官を授ける儀式も多数あるし、
地方の国司の任免などなどというのは政治向きの采配だが、
白馬を曳いて来たり矢を放ったりして邪を払う儀式やら、
弓の競い合いに歌詠みはじめなどという、
神聖なそれから宴半分なものまでと、
晴れがましい儀式も たんと続くとあって。
宮廷で催される代物である以上、
神祗官様とその補佐が、
式次第の段取りやら采配やら、
責任持ってのこと、先頭に立って仕切らにゃならぬ。
そんな面倒なもの、破綻したって俺のせいじゃねぇよと、
そっぽ向いていられたのも当初の数年ほどのこと。
歳のせいで覚束なくなってのぅ…なぁんて
調子のいい甘えようを巧妙に仕掛けて下さる上司様に、
もしかして良いように転がされてはいませんか?という振り回されよう。
気が短いところまで読まれてか、
だぁもう俺がやっから貸してみなという順番で、
気がつきゃほとんどの式典の段取り一切、
準備の段階から当日の本番まで、
素晴らしいほどに遺漏なく取り仕切ったその末に、
大成功に収めてしまっている凄まじさ。

 “まあそれは今更だけどもよ。”

詳細は『
大きな寒い木の下で』ということで。(おいおい)


 「表の公の仕事だけで済みゃまだいいが。」

面倒な出仕の、今日は顔見世だけでよかったお出掛けから戻られた補佐官殿。
この時期ともなれば段取りの仕込みは総てにおいて済んでおり、
当日のドタバタという本番に立ち向かう段階になっておいでという辣腕ぶりで、
どこぞの手際の悪いプロデューサーに見習わせたいお見事さ。
ただ、彼らの場合は、
そういった公けのお務めにだけ駆り出される身じゃあないのが困りもので。

 「ったくよ。
  この時期は俄か信心が束ンなって繰り出してきやがるから
  何かと面倒だってんだ。」

何たって新しい年がやって来る境目と言えば、
節目節目の最上級であり。
日頃はご町内の神社の鳥居の向きさえ忘れているような不信心な輩ほど、
今年はいい目を見られますようになんていう、
勝手な願いごとを抱えて足を運び、神仏へ向かって祈りを奉じるものだから。
どんな中身であれ、神妙に手を合わせて祈る衆生は皆可愛いか、
慈悲深い神や仏が反応して…のことかどうかは定かじゃないが、
祈りという格好での一心な気概があふれるのに押し出され、
曖昧に淀んでいるだけだった良からぬ“気”が蹴り飛ばされての、
人々が押し寄せた神聖なところの近辺にて お仲間同士で合体しかねず。

 「それこそ、神社の神職の方々が祓ってくださればいいんですのにね。」

そのためのお祓いなんじゃないのかななんて、
一応の道理を言ってみる書生の瀬那くんへ、

 「そこまでの咒力が本当にある神職が
  どんくらい居ると思っとるんだ、お前。」

邪妖を本当に祓えるまでの咒力を持つ輩なんてのは、
名のある五行の家系にでも行かにゃあ お目にはかかれないのは、
ここに居る蛭魔や瀬那には判り切ってる事実でもあって。
市井の寺社仏閣におわす方々では、
いわゆる儀礼的な順序にのっとって
折り目正しい決まり事を辿った上でのお祓いで、
邪が寄り付きにくくする“御祈祷”が限度なのであり。
途轍もない濃さ深さの怨嗟や地脈の歪みが生み出した、
邪妖や妖異といった“あやかし”の繰り出す、
鋭い牙や強力な呪いへ立ち向かうのは無理な相談。

 「北向井大路の、有坂の中納言のところのぼんくら跡取りが、
  よほどのこと よう出来た相手であったのが憎かったか、
  取り巻きの一人を苛め抜いたらしくてな。」

その子がたまりかねての逐電を図り、
行方が知れなくなったことを案じた母御前。
最初は我が子の無事をと祈っていたものが、
真相を耳打ちする者があったことから、祈りはすぐさま呪詛へと変わり、
しかもしかも
こういうややこしい時期だったのへと重なったのがどう働いたものか、

 「俺にすれば、そぉんなバカ息子が
  呪い殺されようが、恐ろしい夢にうなされて狂い死のうが
  知ったことではないのだが。」

せいぜい素人の呪いでは、
後腐れのないような徹底した始末をつけられまいからのと吐き出すと。
出仕用の堅苦しい礼装装束から、
直衣に狩り袴という動きやすい恰好へと着替えつつ、
どれほどのこと言に沿わない務めなのかを憎々しげに言い放っての曰く、

 「じわじわといびり倒すより、
  もっとおっかない妖異を見せてやっての震え上がらせてやっからと、
  母御の生霊相手に言い聞かせてやるまでだ。」

 「…おっかない妖異も呼び出すんですね。」

おうよ、近所で不格好に一体化して強くなった気でおるしょむない邪霊がいようから、
それを呼び出して、中納言の息子とやらへせいぜいけしかけてやるさねと。
そっちの段取りは楽しみなのか、
表情豊かな口許を吊り上げて、けけけっと笑って見せた術師殿だったが、

 もしかしたらもうこの世にはおらんのかも知れぬ息子の分も、
 自分の魂、汚したところで救いにはならぬぞと諭してやらねばな、と

そうと思えばこそ、腕によりかけて震え上がらせてやんよと
いやいやに見せかけて、その実、意気盛んな陰陽師の君でもあるくせに。

 “そうと口にするのは おためごかしに聞こえちまうからかの。”

相変わらず素直じゃねぇのなと、
こちらは黒の侍従さんが男臭い口許へ含みの多い苦笑を載せて。

 「よし、行くぞ。」
 「はいっ。」

陽が落ちれば冷え込むだろう、都の場末に向かう身、
気を利かせた賄いのおばさまが用意した温石を懐に、
咒幣や破邪の矢をそれぞれ手にし、
宵から始まるお勤めへお出かけの皆様なのへ、

 「おやかま様、せぇな、おとと様、いってりゃっしゃい。」
 「いってりゃっしゃい。」

今宵はお空へ戻らなんだ子ぎつね坊やたちがお見送り。
これもまた新年恒例の 物の怪成敗のその最初、
早くも取り組む皆様なのでありました。




     〜Fine〜  16.01.04


 *随分と間が空いてましたね。
  急にパタパタっとお仕事が立て込んだのと、
  三が日中に腰をやられて唸ってたもんで。
  これもおやかま様からの罰が当たったのかなぁ?

 めーるふぉーむvv ご感想はこちらvv 

ご感想はこちらへ or 更新 & 拍手レス


戻る